字通の編集について
6.付録について

付録として同訓異字、平仄一覧、作者・書名解説を加えた。

同訓異字には、その用法に自然に慣行とすべきものがあり、必ずしも厳密な区別を施すべきものではない。ただ古典を読むとき、表現の機微にわたることもあり、すでに各字条にしるしていることも、同訓の字を併せて考えるとき、その用法が明確となることもある。古くは伊藤東涯の〔操外字字訣〕、清の劉淇の〔助字弁略〕、王引之の〔経伝釈詞〕などが参考の書とされ、それによる解説が多い。それらは、用例から帰納してその用義を考えるという方法をとるが、本書では字の原義立意の上から解説することを試みた。これは従来にない解説の方法であるので、いくらか参考に供することができるように思う。

本書には、簡単な平仄一覧を加えることにした。一般の辞書には、〔広韻〕〔集韻〕などによって反切・韻を加える例であるが、漢字を国字とする立場をとる本書では、これを略することにした。平仄を必要とするのは、大体において詩賦の類を扱うときのことであるから、そのためには韻別に一括した平仄表を掲げることが便宜であろうと考えるからである。

漢詩を作ることは、昭和の初年にはまだ全国規模の詩社も数社あり、詩会なども行われていたが、今ではほとんど聞くことがない。しかし漢詩の鑑賞には、自らも作詩の経験をもつことが必要であり、平仄表や多数の語彙が、一書のうちに用意されていることが望ましい。

文例として掲げた文献や詩文、その書名や作者たちについては、語彙の辞典である本書には録入しなかったので、別に簡単な解説を加えることにした。文献はほぼ四部別、作者は時代別にした。主要な典籍や作者の、ほぼ全体にわたるものとなっている。

〔字統〕以来、本書の刊行に至るまでに、私はほぼ十三年の歳月を要した。〔字統〕〔字訓〕とともに、いささか世用に役立つものであることを願っている。

平成八年九月
白川 静